大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和37年(行)8号 判決

原告 飯塚タクシー株式会社

被告 福岡国税局長

訴訟代理人 高橋正 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告の申立

「原告が昭和三六年一月一八日被告に対してなした原告の昭和三一年一二月一日から昭和三二年一一月三〇日に至る事業年度所得金額および法人税額に関する審査の請求につき、被告が昭和三七年三月九日になした決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。

二、被告の申立

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

第二、当事者双方の主張

一、原告の請求の原因

(一)  原告はタクシー業を営む法人である。

(二)  原告は昭和三三年一月三一日政府(飯塚税務署長)に対し、原告の昭和三一年一二月一日から昭和三二年一一月三〇日に至る事業年度分の課税標準たる所得金額を金九七万八五九一円、これに対する法人税額を金三七万一八三〇円と申告したところ同署長は右事業年度分の原告の所得金額を金三一六万一六〇〇円、これに対する法人税額を金一四三万五三六〇円と更正した。

(三)  原告はこれに異議があつたので右飯塚税務署長に対し再調査の請求をしたところ、同署長は昭和三五年一二月二七日右の更正処分を一部取消し前示課税標準たる所得金額を金二四四万四〇〇〇円、これに対する法人税額を金一〇九万三七一〇円、とする旨の決定をした。

(四)  原告は右再調査決定になお異議があつたので昭和三六年一月一八日被告に対し審査の請求をしたところ、被告は昭和三七年三月九日右再調査決定の一部を取消し、前示所得金額を金二一五万二三〇〇円、これに対する法人税額を金九五万七七四〇円とする旨の決定をした。

(五)、しかし、原告の前示事業年度における課税標準となるべき所得金額は右審査決定の金額から更に減価償却額金一四六万九三九七円を減じたものであり、従つて右決定にかかる法人税額の算定も誤つているから右決定は違法である。よつて右、決定の取消を求める。

二、被告の答弁

請求原因(一)項乃至(四)項の各事実はいずれも認める。(但し、(一)項中原告の申告にかかる所得金額は金三三万八〇〇〇円、これに対する法人税額は金一一万八三〇〇円であつた。)同(五)項は争う。

三、被告の主張

(一)  原告の前示事業年度分の所得金額およびこれに対する法人税額に対する被告の審査決定の根拠は別表第一に示すとおりであつて右の算定はすべて正当である。

(二)減価償却費の算定基礎

1 原告の営業用小型乗用自動車につき、各車輛毎にその減価償却計算を示すと別表第二のとおりである。

(1)  原告所有の自動車はいずれも、固定資産の耐用年数等に関する大蔵省令別表一にいわゆる小型ハイヤーである。従つてその耐用年数は四年、償却率は四三・八パーセントである。これに従つて各車輛毎の償却範囲額を算出すると、合計金八二三万四〇六五円となる。ところが原告は前示申告に際しこれら自動車を小型ハイヤーとし耐用年数および償却率もこれに従つていながら、減価償却計算に違算を生じ、償却範囲額を合計金九六八万一〇一〇円とし、その金額を償却した結果金一四四万六九四五円の償却超過を生じたのである。

(2)  原告は別表第二中22の自動車に価額一万円のヒーターを備えつけたところ、右ヒーターは前示省令別表の定める固定資産であるから右22の自動車の価額を右同額だけ増加させなければならない。ところが原告は右ヒーターの価額を全額経費として控除している。そこで右価額を原告において全額減価償却にあてたものと見做すと、ここに更に金一万円の償却超過を生ずる。

(3)  しかして、原告所有の自動車に関する正当な償却範囲を超える償却超過額は金一四五万六九四五円となる。

2 原告は価額一万二八〇〇円の事務室用金属性扇風機を購入備付けているところ、右扇風機も前示省令別表に定める固定資産であるから耐用年数二〇年、償却率一〇・九パーセントとして減価償却をすべく、そうすると当該事業年度の償却範囲は金三四八円である。ところが原告は右扇風機の価額を全額経費として控除しているので、これを全額減価償却にあてたものと見做すと、差引き、金一万二四五二円の償却超過を生ずる。

3 前示1および2の償却超過額を加算すると、法定の償却範囲を超える額は金一四六万九三九七円となる。そこで原告の申告にかかる減価償却費一〇〇〇万一七〇〇円から、右金一四六万九三九七円を控除した金八五三万二三〇三円が減価償却費として損金中に計上し得る額である。

四、被告の主張に対する原告の答弁

(一)  被告の主張(一)項について

減価償却に関する被告の審査決定額を争う。その余の事実はすべて認める。

(二)  同(二)項について

1 1の(1) の事実中、原告所有の自動車がいわゆる小型ハイヤーであることおよび小型ハイヤーとして申告したことはいずれも否認する。右はいずれも小型タクシーであつて、その耐用年数は三年、償却率は五三・六パーセントであるからこれに従つて償却範囲を算出すべきである。

2 1の(2) および2の事実中、原告備付のヒーターおよび扇風機が固定資産であることは否認する。右の物品はいずれも事務用備品什器の類であるからこれを全額当該事業年度の営業上の経費として計上すべきものである。

3 被告の主張(二)中その余の事実はすべて認める。

五、原告の抗弁

原告所有の各自動車がいわゆる小型ハイヤーであるとしても、昭和三一年当時、訴外飯塚税務署長は原告に対して右各自動車の耐用年数を三年として所得金額および法人税額の算定、申告をするように行政指導していたのであつて、同税務署長はその裁量権の範囲内で右の方法による減価償却を許したものというべきである。従つて同税務署長の上級行政官庁たる被告は本件審査決定に当りこれに拘束されるものである。

六、原告の抗弁に対する被告の答弁

右の事実は否認する。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、原告がタクシー業を営む法人であること、飯塚税務署長は原告がなした昭和三一年一二月一日から昭和三二年一一月三〇日に至る事業年度(以下本件事業年度と称する)分の法人税確定申告に対し、所得金額を三一六万一六〇〇円、これに対する法人税額を金一四三万五三六〇円と更正処分したこと、原告は右飯塚税務署長に対し、右更正処分に対する再調査の請求をしたところ、同署長は昭和三五年一二月二七日所得金額を金二四四万四〇〇〇円、これに対する法人税額を金一〇九万三七一〇円とする旨の再調査決定をしたこと、原告は昭和三六年一月一八日被告に対し、右再調査決定に対する審査の請求をしたところ、被告は昭和三七年三月九日所得金額を金二一五万二三〇〇円、これに対する法人税額を金九五万七七四〇円とする旨の審査決定をしたこと、そして被告は別表第一記載どおりの算定によつて原告の本件事業年度の所得金額を金二一五万二三〇〇円と審査決定したものであることは、いずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証によれば、原告は昭和三三年一月三一日右飯塚税務署長に対し本件事業年度分の課税標準たる所得金類を金三三万八〇〇六円、これに対する法人税額を金一一万八三〇〇円と確定申告したことが認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

二、そこで、本件事業年度における原告の所得金額につき検討する。

(一)  被告が別表第一記載どおりの算定によつて原告の所得金額を金二一五万二三〇〇円と審査決定したことは前叙のとおりであるところ、原告には本件事業年度内に金三六八〇万六三八三円(内訳運賃収入金三五七三万七六一〇円、受取利息金二二万五三七三円、雑収入金八四万三四〇〇円)の総益金があつたこと及び総損金のうち運送原価額金一五二九万八七六九円、営業費金八七六万三〇九八円、支払利息額金一二三万四五〇〇円、雑損額金六八万四五九六円、減価償却当期認容金一四万七三七円の各損金があつたこと並びに繰越欠損金については控除額がなかつたことは当事者間に争いがない。

(二)  そうすると、被告が原告の本件事業年度の減価償却額を金八五三万二三〇三円と審査決定したことが適正であつたかどうかが本件の争点となるからこれにつき考察する。

(1)  原告が本件事業年度の減価償却額を金一〇〇〇万一七〇〇円と申告したこと、原告は右償却額のうちその営業用乗用小型自動車(別表第二記載の各車輛)の償却範囲額を合計金九六八万一〇一〇円と申告していること、原告の右各自動車について本件事業年度における償却範囲額を算出するのにその基礎となる右各自動車(但し別表第二中番号22の自動車を除く)の価額(以下基礎価額と称する)が別表第二のE記載のとおりであること、原告は本件事業年度内に右番号22の自動車に価額金一万円のヒーターを設備して右ヒーターの価額を全額経費に計上して控除していること、そして原告は右番号22の自動車の期首価額(基礎価額)を金二六万と申告したこと、被告はこれに対し右自動車の基礎価額を金二七万円と審査決定したこと、また原告は本件事業年度内に価額金一万二八〇〇円の事務室用金属性扇風機を購入して備付けたこと、そして右扇風機の価額を全額経費に計上して控除していることは、いずれも当事者間に争いがない

(2)  そこで先ず原告の右番号22の自動車の基礎価額について検討するに、原告は、右自動車に設備した前記ヒーターは事務用備品什器類であるから全額本件事業年度の営業上の経費として計上すべきであると主張するが、右ヒーターが自動車に常時搭載する機器であることは明らかであるから、右ヒーターは自動車と一括して固定資産の耐用年数等に関する大蔵省令(昭和三二年七月三一日大蔵省令第六三号による改正後、昭和三三年一〇月一三日大蔵省令第五五号による改正前のもの)の適用を受けるものと解するのが相当である。してみれば、右自動車の基礎価額は原告の申告額金二六万円に右ヒーターの価額金一万円を加えた額である金二七万円が相当であるから、被告の右認定は正当である。

(3)  次に原告の営業用乗用小型自動車の償却率及び償却範囲額について考察する。

(イ) 前記大蔵省令別表一及び七によれば運送事業用の乗用自動車が「タクシー」であるか「ハイヤー」であるかによつてその耐用年数及び償却率を異にするところ、被告は、原告の各営業用乗用小型自動車をいずれも右省令にいう「ハイヤー」であると主張し、原告は、これは「タクシー」であると抗争するので、先ずこの点につき判断する。

ところで、右省令別表一にいう車輛及び運搬具で運送事業用の乗用自動車のうち「タクシー」とは事業区域内を常時運行して乗客を拾うことを営業の型態とする自動車をいい、「ハイヤー」とはそれ以外の自動車を指すものと認めるのが相当であるところ、証人今薩勉、同安部司朗、同花田憲夫、同古賀次郎、の各証言によれば、本件事業年度には原告の事業区域である飯塚市に事業区域内を常時運行しながら乗客を拾うことを営業の型態とする運送事業用の乗用自動車は存在せず、同市における運送事業用の乗用自動車はいずれもその各所属の営業所に常駐して乗客を待ち、求めに応じて乗客運送に従事するものであつたことが認められ、右事実と成立に争いのない乙第一号証の二の記載とを併せ考えると、原告の各運送事業用乗用小型自動車もその事業区域内を常時運行しながら乗客を拾ら営業型態をとつていなかつたものと推断するのが相当である。右認定に反する証人大場敏雄の証百は措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。してみれば、原告の右各自動車はいずれも右省令別表一にいう「ハイヤー」であると認めるのが相当である。そうだとすれば、原告の右各自動車の耐用年数は四年でありそして右省令別表七によればその償却率は四三・八パーセントであることが認められる。

(ロ) そこで、右償却率に則り原告の右各自動車の償却範囲額を算出すべきことろ、右各自動車のうち別表第二中番号22の自動車を除くその余の自動車の本件事業年度の基礎価額が同表E欄記載のとおりであることは前叙のとおり当事者間に争いがなく、また右番号22の自動車のそれが金二七万円で先に認定したとおりであるから、これらの価値に右償却率を乗算(但し取得年月及び基礎価格を同じくする各車輛についてはその価額を合算した額に右償却率を乗算)して右各自動車の償却範囲額を算出すると、その各金額が同表の償却範囲額(乙)欄記載のとおりであること及びその合計額が金八二三万四〇六五円であることは計数上明らかである。

(ハ) してみれば、原告が右各自動車の本件事業年度の減価償却範囲額金九六八万一〇一〇円と申告してことは前叙のとおり当事者間に争いがないから、結局右各自動車に関し金一四四万六九四五円の償却超過が存在することになる。

(4)  次に、原告が右22の自動車に設備したヒーターにつき考察するに、原告が右ヒーターの価額金一万円を全額経費に計上して控除していることは前叙のとおり原告において自認するところであるが、右ヒーターの価額を経費として控除すべきでないことは先に認定したとおりであるから、結局原告は右ヒーターの価額金一万円を全額減価償却したものとして算定すべく、してみれば原告の申告にかかる本件事業年度の減価償却額中には金一万円の償却超過が存在することが認められる。

(5)  次に、原告備付の事務室用金属性扇風機について検討するに、原告が右扇風機の価額金一万二八〇〇円を全額経費に計上して控除していることは前叙のとおり原告において自認するところであるが、右扇風機は前記省令別表一の事務用金属製器具及び備品であると認めるのが相当であるからこれを固定資産として減価償却すべきところ、同省令別表一及び七によればその耐用年数は二〇年であり、償却率は一〇・九パーセントであることが認められる。してみれば、右扇風機の本件事業年度の減価償却範囲額は計数上金三四八円となるが、原告は前叙のとおり右扇風機の価額金一万二八〇〇円を全額経費として控除しているからこれを減価償却にあてたものとして算定すると、原告の申告にかかる本件事業年度の減価償却額中に金一万二四五二円の償却超過が存在することが認められる。

(6)  以上のとおりであるから、前記(3) ないし(5) において認定した各償却超過額を加算した金額金一四六万九三九七円を原告の申告にかかる減価償却額金一〇〇〇万一七〇〇円から控除すると金八五三万一三〇三円が原告の本件事業年度の減価償却額として損金中に計上し得る額であることが認められる。してみれば、被告が原告の本件事業年度の減価、償却額を金八五三万二三〇三円と審査決定したことは正当である。

三、そこで、原告の抗弁事実につき判断するに、本件全証拠によつてもいまだ原告の主張事実を認めるに足りない。

四、そうすると、被告が原告の本件事業年度の所得金額を金二一五万二三〇〇円と認定し、これを基礎として、その法人税を前記のとおり金九五万七七四〇円と審査決定したことは正当であるから原告の本訴請求は理由がない。よつて、原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 内田八朔 越山安久 生島三則)

別表第一 三一、一二-三三、一一事業年度〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例